一夜のセッションがきっかけでスタートしたsembello。あれからもう6年程経ち、アルバムもこれで三枚目となります(サントラを入れると四枚目!)。ファーストは初期衝動、セカンドが内省的世界とよく言われます。それをふまえて、今作はさらに広がりと深さ、そして色彩感を兼ね備えた会心のサードアルバムとなりました。
昨年秋頃からアルバムの録音を始めて、程よくインターバルをとりながら製作を終える事ができました。エンジニアは気心のしれた加納直喜。ゲストも本当に贅沢なミュージシャン。一枚目からおつきあい頂いている日本の至宝、外山明(ds)。凄腕達人コンビ、岡部洋一(perc)+蒋渕樹一郎(b)。絶頂にノリノリ、中村達也(ds)+tatsu(b)。そしてスカパラのリズムセクション茂木欣一(ds)+川上つよし(b)。
さて、楽曲についてですが、もちろん録音に向けて作曲されたものもありますが、ライブで実際にプレイして手応えを感じた曲を中心とした選曲となっています。録音を聴き返してみて、ライブの現場で育った曲というのは生命力が増すものだと実感しました。曲も生き物ですね。
そして、ほとんどのテイクがファーストテイク。もちろん何度か録音する場合もありますが、試し録りの段階でそのまま演奏しきって、それがOKとなったものもあります。相撲と同じで立ち合いが大事(笑)、良いテイクは最初の音から生命力に溢れているのです。
さらに、本作では沖祐市はピアノだけでなく、オルガンやフェンダーローズもプレイしており、これまでとチョットちがった味付けもお楽しみ頂けます。
それでは各曲の解説を、、、。
カイロスとはギリシャ哲学の時間の概念で、内的、主観的な時間。誕生や死、一期一会的な瞬間、人生を左右する何かを決断するような「とき」の事。(これに対して「クロノス」は外的時間、時計で測れる時間の事。)音楽を演奏している際、時間の流れが一定では無いと良く感じるのですが、、、皆さんも同様な経験がある事と思いますが、如何でしょうか?
テクノ、ニューウエーブを時代の空気として吸って育った結果、脳内に生成された回路基板。髭はあってもモミアゲの無い男達の四人五脚。石炭喰って蒸気吐き、空中彼方へと伸びる線路を駆け上がって行くのです。なるほど、機械の躯体は生来のものであったのでした。
本作唯一のカバー曲。スカパラのレパートリーの中でも美しいメロディで印象深い名曲です。作曲者にベースを弾いてもらうとは有り難き幸せ。おっとこれはスカパラリズムセクションを迎えたワンホーンカルテットじゃないですか!sembelloでデュオ演奏する時にはボッサのリズムでやるのですが、今回のテイクは一転、極上のダンスナンバーとも言えるご機嫌な仕上がりとなっています。クラブで聴きたいなあ。
中村達也とtatsuの組み合わせは唯一無二の世界を作り出します。両者ともロックという一言でくくり切れない広い世界の住人。音楽も立体的なニュアンスをぐぐっと増大秘法。力強さの波頭をかいくぐって、切なげな表情が垣間見える時、大人の男というのは魅力的だなあとしみじみ感じるのであります。
ワンコードでの楽曲もsembello得意とする所ですが、これはその鏡像の様な曲。ウネウネと変化するコード進行。あくまで柔らかいメロディ。「チェホンマン」→「優しい巨人」からこのタイトルになりました。イントロのスペイシーなフェンダーローズの響きから持って行かれます。曲を通じて刻まれるシンバルの様な音は、なんとスタジオにあったアルミニウムの灰皿。
窓辺に置かれた空き瓶。かすかに青みがかった厚手の硝子。小さな気泡が閉じ込められたままで、風が吹くと木漏れ日がちろちろとあたって反射する。まるで夏の日にプールに潜り、水中から上を見上げたその瞬間を切り取って来たかの如し。乾いた気候に濃いめのストレートティが美味しい。
前作「the secod album」に安藤裕子嬢の歌をフィーチャーして収録された曲のインストバージョン。バリトンサックスでメロディを演奏しています。しわがれたチェロも思い起こさせる音色と、それによりそう透明感のあるピアノ。夜空に浮かぶ星に手が届くようです。
沖節全開のご機嫌なナンバー。陽射しのあたたかな休日の午後に、鼻歌をうたいながら歩いて行く、そんな風景。テーマの演奏から私のテナーサックスにより沖祐市のピアノソロが紹介され、涼しい顔をしながら、カンフー映画の格闘シーンが演じられます。
本作でのもう一つのフェンダーローズ使用曲。楽器が楽曲をつくりあげる好例でしょう。サックスのプレイもピアノと演奏する時とニュアンスが変わるところが楽しいです。ここでは岡部洋一が様々な国の打楽器を駆使。すべてコンガ風のルックスなんですが、全く違う音色。エレキベースに持ち替えたコモブチキイチロウも面目躍如、ご両人これしかない!というプレイです。
真夜中に到着したこの街。土埃と油となんともいいがたい匂い。むっとする暑さと、肺の中にまでしのびこんでからみつく湿気が如何わしさを倍増する。聴いた事もない言語でしきりに話しかけてくる奴等。あてもなく歩くほどに活気づく盛り場。無意識のうちに深みへと入り込んでいく。明日、目覚めてホテルの窓から見る景色を思い浮かべつつ、一息にあおった安物のジンが喉に突き刺さる。
3ピースのバンドみたいに、リフから曲を作ろう、とスタジオに入ってセッションで作り上げた曲。二人で演奏していても面白かったのですが、茂木・川上の二人と音を出した瞬間、さらに「行ける!」と実感。この曲はテイクを重ねるにしたがって世界が深まって行きました。なんと茂木欣一はこの曲の為にバスドラムを2つ並べてくれました!
沖祐市のワルツはいつも絶品。曲を聴き、タイトルを見れば風景が広がります。音は言葉の様な説明の仕方を持ちませんが、抽象的であるだけ心に染み込みます。心に浮かんだ花は何ですか?釣鐘草、胡蝶蘭、朝顔、藤、スミレ、ラベンダー、、、、
文:田中邦和
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